起業か。いい響きだ。新しいことを始めるのは、いつだって少しばかり胸が躍る。 そして、多くの人がまず考えるのが「お金」のこと。運転資金、設備投資…どうやって集めようか、と。融資、補助金、クラウドファンディングなんて言葉が頭をよぎるかもしれない。ネットには「こうすれば大丈夫!」的な情報も、まあ、掃いて捨てるほどある。
でも、ちょっと待って。 本当に最初に考えるべきは、そこなのだろうか??そんな感じだと、まるで、目的地も決めずに、ただ、車のガソスタの場所ばかり調べているようなものじゃないか?
今日は、キラキラした成功法則ではない、もう少し、いやだいぶ地味で、でも、たぶん、ずっと大切な話を書きますね。起業という名の、風変わりな旅に出ることを選んだあなたへおくる、「3つの準備」について。少しばかり耳が痛いかもしれないけれど読んでみてくださいね。
準備1:自分のお金を使う覚悟はあるか?
「自己資金ゼロでスタート!」なんて聞くと、なんだかカッコよく聞こえるかもしれない。無一文からの成り上がり、みたいな。 でも、現実は小説ほど甘くない。
考えてみてほしい。あなたは、自分のポケットマネーを1円も出さずに「この事業、絶対成功するんです!」と言ってくる人に、ポンとお金を貸せるだろうか。難しいはず。銀行だって、投資家だって、基本は同じ。
それに、お金だけの話じゃない。最初の売上が立つまで、どうやって食いつないでいく?家賃は?光熱費は? 自己資金がないというのは、セーフティネットなしで綱渡りをするようなもの。精神的にも、かなりきつい。
少しでも自分のお金を入れる。それは、単なる元手じゃない。「自分はこの事業に本気なんだ」という、誰よりもまず自分自身と、そして世間に対する、覚悟の表明みたいなものだ。それがなければ、資金調達のスタートラインにすら立てていない、と思った方がいい。
準備2:「稼ぐ力」という名のエンジンを磨く
会社設立の手続き、税金の仕組み、融資の申請方法…そういう知識も、まあ、ないよりはあった方がいいだろう。 でも、それを完璧にマスターしたところで、あなたの商品やサービスが誰にも求められなければ、1円だって稼げやしない。
起業で一番大切なのは、なんだかんだ言って、「どうやってお金を生み出すか」だ。マーケティングとか、セールスとか、小難しく言う必要はない。要は、あなたの仕事が、誰かの役に立って、その対価としてお金をもらう、その仕組みをちゃんと作れるかどうかってことだ。
ネットで「簡単に稼げる!」と囁く声に耳を傾ける前に、自分の頭で考え、自分の足で動くこと。試行錯誤を繰り返して、自分なりの「稼ぐ力」を身につけること。これこそが、起業という車の、最も重要なエンジンになる。手続きなんて、そのエンジンの載るボディを、後からどう磨くか、という話に過ぎない。
準備3:信用という、見えない資産を築く
お金は、ある意味でとてもドライなものだ。数字がすべて、という顔をしている。実際そういう部分はある程度真理。 でも、そのお金を動かすのは、いつだってウェットな感情を持った「人」。特に、創業したての頃はそうだ。
SNSなどでやたらと必要以上に多くの情報をばら撒くよりも、目の前の一人一人と、ちゃんと向き合うこと。約束を守る、誠実に対応する。そういう、当たり前だけど面倒なことの積み重ねが、「信用」という見えない資産になる。
例えば、地域の信用金庫や信用組合なんていうのは、大きな銀行とは少し違って、数字だけじゃなく、あなたの「人となり」を見てくれることもある。普段からの地道な関係づくりが、思わぬところで助けになるかもしれない。
付き合う人を選ぶ、というのも、あながち間違いじゃない。自分より優れた人と時間を過ごすことで、新しい視点や考え方を学べる。それは、媚びを売るのとは違う。自分自身を高めるための、静かな戦略だ。信用は、借りることはできない。自分で築き上げるしかないのだから。
そして、ようやく「資金調達」という道具の話
ここまで話した「覚悟(自己資金)」「稼ぐ力(エンジン)」「信用(見えない資産)」という3つの準備ができて、初めて「資金調達」が現実的な選択肢、つまり「道具」として意味を持ってくる。
日本政策金融公庫の融資、国や自治体の補助金、投資家からの出資。それぞれに特徴があり、メリット・デメリットがある。それを知っておくのは、もちろん役に立つだろう。 でも、それはあくまで道具の使い方を知る、という段階だ。どんな立派な道具も、それを使う目的と、使うための土台がしっかりしていなければ、宝の持ち腐れになってしまう。
最後に
だから、もしあなたが起業を考えているなら、資金調達の方法を調べる前に、まずこの3つの準備ができているか、自分に問いかけてみてほしい。 覚悟はあるか? 稼ぐ力はあるか? 信用を築けているか?
遠回りに見えるかもしれない。でも、この土台作りこそが、結局は一番の近道になったりするんだ。不思議なことにね。
さあ、準備ができたら、あとは進むだけだ。健闘を祈ります。